魚津の秘境”洞杉・洞杉群”に潜入。特異な地形と厳しい自然が生み出した圧巻の巨木   

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 巨木を目前にすると、来訪者は神秘とも畏怖とも言える感情を抱くでしょう。巨石を掴むかのように発達した幹や根は太く、厳しい風雪に耐えてきたためか、枝は大きくうねり異形の姿をしています。悠久の時を経て表面には苔や草木が根づき、一本の古木に小さな森が形成されているかのようです。筆者は、魚津が生み出した神秘の森――“洞杉・洞杉群”へと足を踏み入れました。

 10月30日・明け方。あいの風とやま鉄道魚津駅付近から乗用車で出発し、洞杉群を目指しました。片貝川を横に見つつ県道132号線を進むと、「洞杉巨木群」の案内板が現れます。その標識に従い、1車線の細い山道へ。「どうか対向車が来ませんように」と祈りながら進むと、「南又谷駐車場」に到着。ここが洞杉群への玄関口です。
 駐車場にはトイレと大きな地図看板が設置されています。降車前、クマよけとしてクラクションを何度か鳴らし、鈴をつけてザックを背負ったその瞬間、背後の急斜面から「ガサガサッ」と何かが駆け下りる音が。恐る恐る振り返ると、正体は2〜3匹のニホンザルでした。冬毛でふっくらとした体つきの彼らはエサを探しつつ縦横無尽に動き回っています。そのうちの一匹が丸太の上に腰を下ろし、空を見上げる姿があまりに可愛らしく、思わずカメラのシャッターを切りました。

 撮影を終え歩き出すと、舗装路ながら連日の雨で斜面から水が流れ込み、道の一部が小さな沢のようになっています。片貝川には流れ着いた大木や岩が折り重なり、土砂崩れの痕跡も見て取れました。
 一方、厳しい自然環境の中で逞しく生きる樹々は赤や黄に染まり、訪れる者に秋の訪れを告げています。筆者が訪れた日は、緑の森の中に赤や黄が鮮やかに映え、遠くには初冠雪した山々が姿を見せ、その調和は息を呑むほどでした。

 景色に見とれながら歩いていると、ふいに目の前に巨木が現れました。まるでアニメや絵本に登場しそうな奇異な姿――これこそ、この地が育んだ神秘の古木“洞杉”です。

 洞杉は天然の杉の古木で、中には主幹の周囲が1,560cmに達するものもあります。環境省が1999〜2000年に行った巨樹・巨木調査では、杉単体部門で新潟県の将軍杉(1,931cm)、鹿児島県の縄文杉(1,610cm)に次ぎ、全国第3位の太さを誇ります。
 「洞杉」という名は、幹の内部が空洞になっているものが多いことに由来するとされています。生育地は片貝川南又谷の標高500〜700m前後の斜面から稜線にかけてで、転石や露岩が多い急斜面に多く自生しています。樹齢は古いものでは一千年、若いものでも数百年を超えると言われ、その姿を間近で見ると、まさに悠久の時を感じさせます。

 洞杉をより楽しめるよう、一部には木道の観察路が整備されています。入口にはコース内容の看板があり、見どころの一つである「最大洞杉」を目当てに筆者も歩き始めました。
 木道に一歩踏み入れると、スタジオジブリ作品『もののけ姫』を思わせる神秘的な世界が広がります。苔むした岩や多様な樹木が生い茂り、木々の間から差し込む光は神々しさすら感じさせます。
 滑りやすい木道を慎重に進むと、ついに最大洞杉が姿を現しました。そびえ立つその姿は、まるで森のご神体。巨石を包み込むように根を張り、地表近くの樹皮には無数の苔や草木が付着しています。見上げれば、幹は複雑に分岐し、空を覆うように枝が広がり、それぞれに小さな生命が宿っています。一つの巨木が、一つの生態系を成しているかのようでした。

 名残惜しさを抱きつつ進むと、木道の両側には大小さまざまな洞杉が次々と現れ、筆者を奇怪とも幻想的とも言える世界へ誘います。一方で、若い細身の杉も並んでおり、これらも数百年、数千年を経て巨木へと成長していくのだろうかと想像を膨らませました。40分ほどの散策は、まるで異世界の入口を歩いたかのような体験でした。