
「街が一体となって地域観光の未来を考える」–。
観光地域づくり候補法人(候補DMO)として登録を受けた当社は、本格始動を前に「魚津DMOキックオフセミナー」を魚津市とともに開催しました。参加者は定員40人を超え、市民を含むさまざまな関係者の関心度の高さが表れました。講師を務めた魚津市地域活性化起業人(副業型)で株式会社JTBツーリズム事業本部事業推進部地域交流チームグループリーダーの時任翔史さんは「魚津市の観光には大きなチャンスがあります」と力強く明言。観光の舵取り役を担う当社もチャンスを活かすために新規会員制度「DMOパートナーズ制度」の構築や旅行特化型動画SNSアプリへの参画、EVトゥクトゥクを活用したオプショナルツアーの造成、地場産品カタログギフトの発行などを予定しています。魚津の観光の未来を見据えたセミナーの内容を報告します。

多様化が進む観光ニーズ
科学的アプローチに注目集まる
現在、魚津市を含む多くの地方自治体では人口減少が深刻な課題で、国立社会保障・人口問題研究所の調査では2050年時の人口が2020年よりも減少する市区町数は全体の95・5%に達すると言われています。また、人口減にともなう域内消費額の減少も懸念されています。そして、域内消費額の減少分を補う策として注目されているのが観光消費による域外からの収入増です。市場調査会社の帝国データバンクが1月に公表した景気動向調査の中で「(今後は)底堅い旅行需要や半導体・AI(人工知能)・防衛関連の成長投資にも注目が集まる」と旅行業が期待の業界として取り上げられています。
ただ、従来の観光施策を継続するだけでは限界があるようです。講師を務めた時任さんは「観光客のニーズの多様化により細やかな地域マネジメントが必要となり、地域が埋もれてしまわないためにも、戦略的な情報発信とブランド構築が求められます」と話し、ニーズに沿ったコンテンツの開発や他地域に埋もれないブランド化、誘客と住民満足度の両立など具体的な行動事例を示しました。
新たな施策の数々ですが、実現に向けて舵取り役も必要です。そこで登場するのがDMO(観光地域づくり法人)。時任さんはDMOを「観光協会が来訪者を温かく迎える宿の主人だとすれば、DMOは地域全体の観光という船の航海士」と例えます。船員である地域の多様な関係者を巻き込み、科学的なアプローチを取り入れた司令塔として将来を見据えて観光・まちづくりの施策に取り組む役割が期待されています。一方、DMOが誕生したからすぐに効果が表れるわけではありません。時任さんがDMOの好事例として示した「NPO法人ORGAN」(岐阜県岐阜市)の地域ブランドの認知向上の事例や「一般社団法人豊の国千年ロマン観光圏」(大分県別府市)の観光マネジメントの成功の事例は、約20年かけて成功にたどり着いたと言います。時任さんは「できることから少しずつ取り組み、ロングスパンで見て確立されたものです。時間がかかるがこつこつ続けることで成果につながります」と長期的な視点に立ち、継続することの重要性を説きました。

目的を定めて観光データの活用を
「勘・経験・度胸」との融合で相乗効果に期待
さて、ここまでは「なぜ観光施策が必要なのか」「DMOとはどういった役割を担うか」などに触れてきました。以降は本セミナーのテーマ「データの利活用」について紹介します。
結論から言うと「データを眺めるだけでは何も生まれません。あくまでも、目的の達成に向けてデータを活用します」に収斂されます。データ分析が目的になりがちだが、データはあくまでもツール。時任さんは「『問題(課題)=解決したい事象』は目標と現実のGAP。GAPを引き起こしている理由(仮説)をデータから明らかにすることが基本」とデータ分析の考え方を分かりやすく解説されました。
加えて、筆者が新鮮に感じたのは「勘や経験、度胸(KKD)」とデータの掛け合わせという話です。例えば観光案内所などで働くベテランスタッフが持つノウハウや人脈、数値化や可視化が難しい地域の雰囲気や特徴を理解している住民の感覚、これらは観光施策を考えるうえで貴重な財産です。地域関係者がこれまで連綿と築き上げてきた礎に、新たに収集・分析したデータを突合することで新たな発見やシナジーが誕生し、地域一丸となって共創による観光振興が成り立つのではないでしょうか。
観光庁も観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進で「課題の解決に向けて、地域や関係事業者と連携を図りつつDXに取り組んでいくことが大切です」と提起するとともに「事業者間・地域間のデータ連携の強化により、広域で収益を最大化し、地域活性化・持続可能な経済社会の実現につながる」と公表しています。

次年度は情報発信とデータ利活用をより進化
魚津観光まちづくり会社
当社も全国に魚津市の認知度を高めるため、情報発信とセットでデータ収集分析を実行中です。事業統括マネージャーの近藤史彦は当社が運用している魚津市観光案内のフェイスブックとインスタグラムのインサイトのデータを示しながら閲覧者の傾向などを参加者へ解説しました。また、近藤は「フェイスブックは魚津の方の閲覧数が圧倒的。次に富山市の方と続きます。注目は3番目の台湾からの閲覧数です。今後のインバウンド集客を考えた時、のびしろだと思います。(台湾を含む)海外向けの情報発信にフェイスブックを活用できる可能性があると捉えています」とデータから見えてきた今後の取り組みにつながるヒントを示しました。
一方、インスタグラムの分析ではフォロワー以外からの閲覧数の伸びが顕著であることを示しました。近藤は「閲覧数の増加は関心につながっていることのあらわれです。結果的にはそれがフォローにつながりフォロワーの増加にも寄与しています」と分析。また、画像投稿と動画投稿を比較するとインタラクション(投稿に対するリアクション、クリック、コメントなどの数)は圧倒的にリール動画が高いことが分かりました。当社は今後も動画配信による関心度の増加という方針は変えない一方、今年度の検証を踏まえて次年度は情報発信と得られたデータの利活用をより進化させていきます。
ほか、情報発信分野では当社ホームページや「魚津ルポ」の開設を実現しました。今後、新たに開設したサイトなどからもデータを収集分析して今後の観光施策に活用する方針です。また、魚津観光案内公式ホームページの英語、繁体字対応や各観光施設などで発信されている年間販促スケジュールの集約なども進めます。さらに、ソフトバンクの完全子会社SBイノベンチャーが提供するショート動画に特化した旅行情報SNS「NewTravel」に、富山県内の他市町村に先駆けて参画予定です。

EVトゥクトゥクのツアー商品化や
地場産品のカタログギフトなども検討
今年度は情報発信分野以外でも複数の事業がスタートを切りました。当社初の自主事業「魚津駅前屋台~秋酒と紅ズワイ~」の開催、「EVトゥクトゥク」レンタルサービス事業、「大人の産業観光ツアー」の開催などです。また、厳冬期の誘客促進という地域課題の解決に向けて2月14日のバレンタインデーに新たなイベント「魚津バレンタインバル」を初開催します。次年度以降も観光資源の磨き上げをテーマに自主事業の発展に努めます。具体的には、体験コンテンツを提供する事業者や「洞杉ガイド」「水守ガイド」などと連携してEVトゥクトゥクを活用したオプショナルツアーの商品化を検討するほか、新たに地場産品カタログギフト「(仮称)魚津GIFT BOOK」発行にも取り組みます。市民発信による魚津市の地場産品のPRにつなげるとともに観光客などの土産物屋取り寄せギフトとしての需要も見込みます。また、当社としては販売手数料を自主財源とし、依存財源の低減にもつなげます。

データと官民の知恵を掛け合わせ
新たな観光旋風を魚津に呼び込めるか
一方で、これらの施策は地域関係者の協力が必要です。当社としては、地域の関係者との共創によって観光施策を実行し、そこで得た収益を地域に還元する経済循環を目指します。この目的を達成するために新たな会員制度「DMOパートナーズ制度」を当社は構築します。会員様に対してランクに応じて特典も用意します。具体的には魚津ギフトブック事業への参画や広告掲載などのPRです。会員様の年会費はカタログギフト事業などの実施に充当します。これにより、事業の実施と継続を実現し、地域に還元される仕組みに発展させたい考えです。
設立当初から魚津市をはじめ多くの地域関係者様の支援を受け立ち上がった当社。まだまだ小さい成果ではありますが、着実に魚津へ新たな観光の風を呼び込みつつあります。これも地域関係者様のお力添えがあってこそ、大変感謝しております。今後もより一層、地域との連携を密に取り、定性、定量の両面からアプローチを行い、観光・まちづくりの2本柱で地域経済の活性化に貢献していきます。
そして、本セミナーを通じて、データと人の知恵を掛け合わせ、地域が一体となって魚津の観光の未来を描いていく第一歩が踏み出されたといえるのではないでしょうか。