
平日にもかかわらずオープン前から客の列が伸びる、魚津きっての繁盛店があります。漁協直営の飲食店「魚津丸食堂」です。手ごろな価格帯で、鮮度抜群の魚料理が食べられるとあって、地元客や観光客から人気を集めています。建物は元々、漁港用地の倉庫兼調理施設でしたが、リノベーションし、2019年2月に飲食店として生まれ変わりました。業績は右肩上がりで、2025年度売上高は対前年比120%、計画値も達成しました。目指す姿は“地域共栄”。店を切り盛りする、店長の竹内直樹さんは「漁師さんなどとの連携を大切にしながら、魚津の食を通じて特別な感動体験をお客様に提供しています」と話します。店舗をプロデュースする魚津漁業協同組合の代表理事組合長・濱住博之さんは「自分たちだけが売り上げを伸ばすのではなく、地域連携によって全体で盛り上がることが大切」と強調します。地域発展の先に、2号店といった次なるステップの可能性も秘める同店の取り組みに迫ります。


開業のきっかけは「水産基本法」
都市と漁村の共生に共鳴
漁協自らが飲食店経営をはじめるきっかけとなったのは、2001年6月に施行された水産に関する施策の基本理念や方向性を定めた法律「水産基本法」に盛り込まれた「都市と漁村の共生」という理念です。
この取り組みの一つとして、東京都内でイベントを行ったり、アンテナショップを出店したりするなど、都市部へのプロモーションを積極的に行ってきました。ただ、それだけでは、一方的に魅力をアピールするばかりで、相互に交流を深めるような「共生」と呼べる段階には至りませんでした。また、持続可能としていくためには、物流や人件費、交通費などのコスト面も課題となりました。

そこで、着想したのが、逆に都市部から人を呼び込む“受け皿”となる拠点施設を、地元に創るということでした。「『これだけアピールしたのだから、今度は魚津に来てもらい、もてなそうよ!』」という思いがありました。一方で、“地元に愛されなければ、観光客からも選ばれない”という考えも強くありました。
濱住さんは、「都市と漁村の共生」という大きな目的を掲げながらも、まずは、地元の海産物を、市民に届ける役割を果たすことが、地域貢献につながると考えました。
こうして、地元食材を使った魚料理を手軽に楽しめる飲食店として「魚津丸食堂」は開業しました。2019年5月には、宿泊可能な拠点施設として「一棟貸宿・渚泊魚津丸」も手がけました。

ただ、必ずしも順風満帆のスタートとはいきませんでした。漁協の強みを生かし、目的を達成するため、自前での運営を選択しましたが、人手不足の課題に直面しました。加えて、営業開始からわずか1年足らずで、未曽有のコロナ禍が襲ったのです。
竹内さんは「店内飲食ができなかった期間は、弁当販売で乗り切りました。本当に過酷でした」と、当時の苦しい思い出を語ります。一方で、この経験から多くのことを学んだといいます。
「いつ何時、こういった状況になるか分かりません。だから、全力でできる時には、全力でやるというスタンスです」と力強く頼もしい一面をみせます。
妥協を許さない高鮮度維持
コメや野菜、調味料も魚津にこだわる
コロナ明けから、評判がSNSや口コミで市内外へと広がり、著名なインフルエンサーにも紹介され、行例ができる人気店へと成長していきます。その裏には竹内さんの食材選びやメニュー開発に対する熱い想いやこだわりがあります。
魚介類は市場から朝どれの鮮魚などを仕入れて、すかさず加工したり、瞬間凍結を活用したりして適切に管理しています。特に高鮮度の維持は妥協を許さない徹底ぶりです。
コメや野菜にもこだわります。コメは坪野地区で丹精込めて育てられた魚津産を使用。副菜の野菜も微生物を活用した有機栽培(EM農法)を取り入れている野田農産さんの小松菜やホウレンソウ、スマート農業を活用して農業の活性化にも取り組む高慶農産さんの新川だいこんなどが使われています。
汁物に欠かせない調味料の一つである味噌は、宮本みそ店さんの味噌を魚津丸食堂の1階で熟成して使います。「いわば魚津丸食堂のオリジナルの味噌」(竹内さん)のため他店には真似できません。
竹内さんは「地元食材の活用は、漁師さんを含めて地元の協力がなければ実現できません。本当にありがたいです」と話します。
「来店客の心を動かす」
メニュー作りに込める思い

来店客の心を動かすようなメニュー作りにも取り組みます。夏季は、普段、食べることができない、深海魚や珍しいアカヤガラなどを使ったメニューが登場します。また、ハワイで高級魚として知られ、調理が難しいシイラを使った揚げ物などもあります。
常連客から支持が高い「刺身定食」や「おまかせ定食」などは、その日に獲れる魚によって内容が変わります。
紅ズワイガニをふんだんに使った季節限定の「カニ身丼」や、高い鮮度維持を実現できるからこそ提供できる生のゲンゲを使った「達丸セット」など、四季を通じて来店客を飽きさせないメニューが並びます。
人気店となり観光客も増加
ただ、新たな課題も・・・
人気店となった一方で、満席のため、地元客が入店しづらいという、新たな課題も出てきています。
濱住さんは、解決策として魚津水族館に隣接する飲食スペース「魚津丸キッチン」の活用を挙げます。魚津丸食堂の姉妹店として、土日祝日のみ「魚津バイ飯」や「魚津ハトシ」、「ゲンゲ唐揚げ」などを提供しています。「店のキャパの拡大や増設は簡単にはできません。すでにある『魚津丸キッチン』へ上手く来店者を誘導できる仕組みをつくり、両店でバランスを取りたいです」と話します。
経営の柱は“地域共栄”
市民に寄り添い、地域の発展を
市民向けの取り組みも力を入れています。ポイントカードのほか、65歳以上の来店者向けには100円割引が適用されるシニアデーなどを設定しました。また、電子地域通貨「MiraPay(ミラペイ)」や「UO!トク!商品券」の提携店として、市民が利用しやすい店づくりを心がけています。
今後の展望について、濱住さんは「まずは、地域を盛り上げる役割をしっかり果たすこと。それが実現した上で、2号店や増設の可能性など、次のステップが見えてくるでしょう」と話します。竹内さんは「魚津の発展のために、横のつながりをこれまで以上に大切にしながら、感謝を込めて地元の食材を活用し、市内外の皆さまに、魚津の海の幸を提供し続けていくことです」と考えを述べます。
あくまでも“地域共栄”を経営の柱とする魚津丸食堂。これからも市民に寄り添い、市内の海産物消費の一翼を担います。

【予告】明日は〈魚津丸食堂・インタビュー 前編〉を掲載します。
魚津漁業協同組合/代表理事組合長・濱住博之さんの魚津丸食堂にかける思いや地域とのかかわり方などについて話を聞いてみました。
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