
岩ガキを魚津の夏の名物に―。魚津漁業協同組合は、漁業者の新たな収入源確保と夏の特産品創出に向けて、岩ガキの養殖に挑戦しています。オーストラリアで開発されたバスケット(カゴ)を利用したシングルシード方式と呼ばれる養殖技術を取り入れ、生産性を高めながら身入りのよい岩ガキの提供を目指しています。魚津漁協の代表理事組合長を務める濱住博之さんに、岩ガキ養殖の現状や今後の目標などについて聞きました。
―2022年から本格的に取り組み始めた海藻・岩ガキ養殖の目的を教えてください
「水産資源の減少で漁業者の収入が減るなか、副業として海藻と岩ガキを養殖して収入を確保できないかと考えました。とくに定置網漁で狙う回遊性の魚種は、温暖化などによる水温の上昇で漁獲量が減少傾向にあります。また、定置網漁は設置や撤収に人手は必要ですが、基本的には魚が自然に入り込むのを待つ『待ちの漁法』のため、待機時間を有効活用できます」
夏枯れを防ぎ、海産物の消費拡大へ
―夏が旬の岩ガキに着目した理由は
「富山湾の特徴である夏になると獲れる魚が減る『夏枯れ』状態となり、来訪した観光客も他の季節と比べて海産物があまり楽しめないという課題がありました。そこで、夏に旬を迎える岩ガキに注目しました。また、富山県が『寿司といえば、富山』とブランディングして海産物の消費を後押ししています。当漁協としても通年で海産物を楽しめる環境を整え、県と同様に海産物の消費を促したいと考えました」
―魚類の養殖は選択肢にありましたか
「過去にはシマダイ(イシダイ)やヒラメを養殖していました。ただ、当時は天然物と比べて価格が安く、その一方で餌代や生簀(いけす)といった設備投資などの費用が大きいため、採算が合わず、継続が難しいと判断しました」
「また、富山湾内は冬になると高波が発生するなど海面が安定しておらず、海上養殖に向いた場所がほとんどありません。さらに、生簀の網に魚が当たって傷が付き病気になるケースや網に付着した貝をシマダイが食べた際に網まで食いちぎられてしまい、結果として養殖魚が脱走するといった問題も発生しました。当然ながら、かなりの手間もかかりました。こういった経験を踏まえて、この養殖事業では選択肢から魚類を省きました」
『オイスターバスケット』を利用して効率的な生産目指す
―現在行われている岩ガキ養殖の特徴を教えてください
「天然の稚貝を採取して育てています。そのため、養殖とはいえ天然物の岩ガキを育てていることになります」
―育てる上で工夫されていることはありますか
「通常は、ホタテの貝殻をロープに挟み込んで海中に吊るす『垂下式(すいかしき)』が一般的です。貝殻に岩ガキの稚貝が付着して成長します。ただ、成長した岩ガキの貝殻にも海藻や他の貝、フジツボなどが付着して、出荷する際の洗浄にかなりの労力がかかります。そこで、当漁協では『オイスターバスケット』を使っています。利点は、波によってカゴが揺れると中の岩ガキ同士が当たり、付着物が付きづらくなることです。また、荒波に揺られると身も大きくなる特徴があります。洗浄作業の手間を減らしつつ、サイズの大きな岩ガキを比較的高めの価格で販売できる可能性に期待しています」
―オイスターバスケットを利用する利点は理解できましたが、課題もあるのでしょうか
「長期にわたってカゴを海中に設置するため、他の漁業者の迷惑にならないような配慮が必要です。また、カゴに付着物などが付いて上手く機能しなくなる恐れもあるため、定期的にカゴの掃除が必要ですし、カキの成長に合わせて目合いを大きくしたカゴに入替る作業があります。引き続き、効果的で現実的な対策を検討していきます」
―岩ガキの販路は開拓中ですか
「現在は実験的な段階で生産量も少ないため、販路開拓の段階には至っていません。ただ、当漁協が運営する食堂『魚津丸食堂』では、期間限定でカキフライとして提供しています」
夢は岩ガキの生食提供。魚津の新たな特産品へ

―生食での提供は検討されていますか
「本音を言えば、生食で岩ガキを提供したいですが、ノロウイルス食中毒を防ぐ策を講じる必要があります。例えば、入善町のように岩ガキを海洋深層水につけて浄化できればよいのですが、魚津では海洋深層水が取水できません。今後の課題です」
―岩ガキ養殖の目標や夢を教えてください
「前述した課題を解決しつつ、生食可能な岩ガキの出荷に向けて、具体的な道筋をつけたいと考えています。できれば3年後くらいに叶えたいですね」
「そして個人的な夢としては、欧米のようにクラッシュアイスを敷き詰めた大皿(プラトー)に生の岩ガキを山盛りにして、来訪者に提供することです。魚津の海を眺めながら岩ガキとともに地元の白ワインや日本酒なども楽しめたら、大変魅力的ではないでしょうか。魚津の新たな特産品としての可能性を十分に秘めていると思いますよ」