
現状維持か、それとも打破か―。岐路に立つ魚津水族館が選んだ道は「現状打破」でした。それを象徴するのが、組織目標に掲げた2030年度の完全黒字化です。
館長の清水悟史さんは「4代目を含めて次世代の水族館を考えるにあたって(黒字化の)達成か、相当の実績が出ないと市民や富山県の理解を得るのは難しいです」と説明します。水族館の将来像を描く上でも、収支改善は避けては通れません。実現への鍵を握るのは、主に5つの取り組みです。
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移転やリニューアルなどを経て現在の「3代目魚津水族館」が開業したのは45年前。設備の老朽化が進み、数年前から「4代目魚津水族館」についても話が持ち上がっています。一方で、収支は依然として赤字の状態。建て替えや大型設備などの刷新の前段として、清水さんは「赤字からの脱却は最低ライン。達成して初めて、次のステップのスタートラインに立てます」と強調します。
過去の黒字実績について同館に取材しましたが、会計記録のさかのぼりが難しく正確な把握は困難ということでした。果たして本当に黒字化は可能なのか。清水さんは「黒字化にしなければならない」と言い切り、強い意志を示します。
黒字化に向けた具体的な推進項目は、次の5点に集約されます。①情報発信の強化②食を絡めた企画のバージョンアップ③展示の見直し④年間パスポートの普及推進⑤市内事業者との連携強化です。

このうち、情報発信と食に関する取り組みについては2025年度で成果が出はじめています。SNSでは特にインスタグラムを活用した投稿がヒット。飼育員ならではの視点や報道発表と合わせたリアルタイム投稿、同館の過去の写真や飼育員のスマホに眠っていたお宝写真を投稿する“うおすいメモリアル”などの新コーナーも設けて多角的な情報発信を行っています。また、食を絡めた企画も好評だったため、今年4月には魚津漁業協同組合と連携してホタルイカの生態を学び、ホタルイカを使った寿司を味わうイベントを開催しました。秋にも別の生き物でイベントを打ち出す計画があります。人気企画として定着しつつありますが、現状維持ではなく、あくまでも進化させて大人気企画へと成長させる方針です。
展示の見直しでは「富山湾大水槽について今年度にも“水塊(すいかい)”を感じられる展示に見直す」と清水さんは言います。“水塊”はサンシャイン水族館や新江の島水族館などをプロデュースしてきた水族館プロデューサーの中村元さんが提唱した展示理念です。中村さんは水塊の要素について「海の果てしない広さ、水中の青色やきらめき、浮遊感、立体感、清涼感、命の躍動感など非日常的な水中感の全てです。それらをいかに魅力的に再現できるかを追求した展示が『水塊展示』です」と説明しています。
魚津水族館では、水塊展示の要素を富山湾大水槽に取り入れるため、まずはLED照明を刷新します。導入により本来の海中に近い姿を水槽内に演出して、入館者へ新たな体験価値を提供します。
展示における新たな取り組みでは、2028年までに発光生物の展示コーナーの新設が予定されています。世界で初めてマツカサウオの発光を発見した同館は、生きた状態のホタルイカや発光するイソギンチャク「ウミサボテン」が容易に入手できる環境にあります。発光生物をより前面に打ち出した新たな集客方法を模索しています。

ファンとの長期的な関係構築も進めます。鍵となるのが年間パスポート(年パス)で、特典を増設中です。例えば2026年4月には、同館と隣接する飲食店「魚津丸キッチン」で年間パスを提示すると旬の海鮮を味わえる「うまうま丼」が100円引きになる特典を付加しました。年パス所持者限定のイベントなども計画中です。
市内事業者との連携も強化します。魚津漁協との連携をモデルケースに、連携先数を増やして、新サービスの創出などにつなげたい考えです。「すでに数十の事業者へ声がけを行っています」と清水さんは言います。消費者目線を特に意識する民間のアイデアやビジネスモデルを取り入れて入館者満足度の向上につながるか注目です。
清水さんは「水族館単体だけにとどまらず、連携によって魚津全体で来訪者の満足度を高められるように発展させたいです。そのためにも水族館の黒字化とパワーアップは不可欠です」と補足します。

外部環境なども踏まえると楽観視できる状況ではない魚津水族館。ただ、足元の状況以上に、現状維持による衰退に危機感を抱いた結果、現状打破という厳しい道へ一歩、二歩と踏み出したと言えそうです。市外入館者への負担増の検討を進める一方で、展示の刷新や市内事業者との連携など、提供する価値の向上をいかに両立させるかが今後の焦点となります。2030年度の完全黒字化という明確な目標に対し、打ち出された具体的な施策がどこまで持続可能な成果に結びつくのか、その実行力が問われることになります。
(この連載は梅田大希が担当しました)
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